ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.33 名古屋中華そば屋 三吉

名古屋のラーメン界に新風を巻き起こしている人気店『中華そば屋 三吉』。洋食・フレンチの元料理人である店主・坂田紀由樹さん(44歳)は、独学で"無添加食材を使った化学調味料なし"のラーメンをつくり上げ、3年前にカウンター10席の店をオープンした。今では、1日180食限定の中華そばを求めて、オープン前には50人からの行列ができる繁盛ぶりだ。

宗田節など厳選した素材を使った和風出汁と、豚骨鶏ガラのWスープに天然塩を合わせたスープが絶妙と評判の『中華そば屋 三吉』。ご主人・坂田さんは開口一番、

化学調味料を使わず味を安定させ、なおかつインパクトのあるスープをつくるために、ウチではこの食材から出る灰汁を利用している」

と衝撃の告白。"灰汁は丁寧に取り除く"がスープづくりの鉄則ではなかったのか!

灰汁の質と味は、当然、時間と材料の組み合わせでいろいろとかわってくる。フレンチではこの灰汁ソースに使うんです。つまり、灰汁は食材から出るエキスの宝庫。これを使わない手はないでしょ?」

"灰汁を使う"という大胆な発想が、あの"三吉の味"を生み出したのだ。

ご主人の"ラーメン初体験"は、4~5歳の頃、北海道・小樽の屋台で食べた、あっさり味の醤油ラーメン

「裕福な家庭じゃなかったので、ラーメンはごちそうでした。食べることに飢えていたから、食べることへの執着が強く、それ以上に、つくること、人に食べさせることが、子供の頃から好きだった」

高校を卒業後、洋食、フレンチの料理人として人生を歩む。

自由な発想で自分の味をつくることができる……これがラーメン店を始めようと思ったきっかけだ。店を構える前に、北海道から九州まで全国のラーメンを食べ歩く。

「偶然、前を通りかかった無名の店に入ることが多かった。アイデアが埋もれてないか、ってね(笑)」

ラーメンづくりに正論はない

独学で導き出した"自分の味"の設計図には、"食材1つひとつの個性を大切にしたい"という大きな柱が描かれていた。さらに

「見て、嗅いで、食べて良し。これを基礎に、経験と知識を頼りに思いついたこと全て確かめた」

という。こうしてたどり着いたのが"無添加食材を使った化学調味料なしの中華そば"だった。

看板メニューの「中華そば 塩」。塩ラーメン特有の半透明のスープに、やや細めの縮れ麺煮卵メンマノリネギ、厚さ5ミリほどのチャーシューに浮かび、何とも芳ばしい香り。出汁が生きたスープには、ほのかに甘味酸味も顔を出す。横の広がりを持った飽きのこない味わいだ。

「ラーメンづくりに正論はない。日々自分との戦いだ」

と断言する坂田さん。今でも毎日のスープづくりでは、火加減、時間、温度、食材・灰汁の分量を変えて、レシピにアレンジを加えているというから驚きだ。そんな研究熱心ぶりが祟ってか、自分の味を見失ってしまい、2~3週間ほど店を閉めた経験もあるという。

「正直、挫けそうになることはある。でも、周りに恵まれているんですね。例えば、特注麺をお願いしている製粉メーカーさんは、依頼もしていないのに"今度のスープにもっと合うよ"と新しいを持ってきてくれる。だから"自分"になんか負けてられない」

"どんなに忙しくても新しいメニューをつくる"のが、最近の坂田さんのモットーだ。三吉のスープ小麦を皮ごと挽いた全粒粉を使ったミディアムレアの照り焼き風鶏チャーシューが乗った、斬新な新メニュー「鶏そば」もそんな意欲作である。今は冷たいスープで食べる中華そばを、新たに3種類考案中とのこと。

「これからも、失敗の山から生れてくるアイデアを積極的に採り入れて勝負していく。結局のところ私は、コストを考える"経営者"というより、美味しいものをつくってお客さんに喜んでもらうのが生き甲斐の"料理人"ですね」



名古屋中華そば屋 三吉
住所:名古屋市千種区萱場2-2-1ハートインカヤバ1F
TEL:052-712-5254
定休日:火曜日、第1、第3水曜日
営業時間:11:00~14:00、18:00~売切れ次第終了

坂田 紀由樹さん

中華そば屋 三吉
店主
坂田 紀由樹さん
SAKATA NORIYUKI

1959年3月11日、北海道生まれ。18歳の頃からフレンチや洋食の料理人を経験。名古屋市中区錦で飲食店を営んだあと、約7年前に(有)ランを設立。99年12月に「中華そば 三吉」をオープン。趣味はスキーとダイビング