ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.48 麺劇場 玄瑛

「場所がわからない」「入りづらい」「博多の豚骨ラーメンらしくない」その上「話しかけにくい」。2003年11月、クセのあるラーメン店が福岡市中央区の入り組んだ一角にオープンした。『麺劇場 玄瑛』、誰も見たことのない店の造りと、店主の心意気が充満するラーメンは、おそらく訪れた人の記憶から消えることはないだろう。

倉庫のようなスレート張りの外観、扉を開けば木の壁が視界をふさぐ。←の指示に従いおそるおそる足を進めれば、舞台のような厨房と劇場スタイルの客席が姿を現す。

初めて訪れた人は「うわぁ、何コレ?」とおろおろする。ある意味、店主は確信犯だった。どこにもないラーメン屋をつくりたかったのだ。

「お客さまの顔を一同に見ながら、1杯ずつその方のためのラーメンをつくりたかった」

結果として、客席側からも店主の仕事ぶりがイヤでも目に入る劇場スタイルが完成した。たった1杯のラーメンは、店主と観客席に行き来する心模様を映し出す。

豚骨ラーメンを卒業した世代が、戻って行ける店があってもいいんじゃないかと思った」

玄瑛流の豚骨ラーメンも置いてあるが、勧めるのは醤油ラーメンだ。「潮薫醤油拉麺」「海老薫醤油拉麺」と2種類を置く。

店内に設置した製麺室で打つ加水率47パーセントの細麺を、入念に揉みほぐしながら湯に放つ。「手間と愛情をかけた分だけおいしくなる」が信条だ。チャーシュー白髪ネギ揚げ葱などトッピングにも繊細さが宿る。

味噌汁とご飯のような関係のラーメン

まずは、その香りからいただこう。ふぅわりとただよう香ばしさに食欲はさらに加速する。麺はモチモチとした歯ごたえを残しつつも軽やかな食感。スープの旨味を喉の奥まで運んでくれる。

女性でも飲み干したくなるスープだが、そこは後のために残しておくのが賢明だ。実家でとれた米で炊いた白ごはん薬味を添え、汁かけ飯として食す。もともと「味噌汁とご飯のような関係のラーメン」をイメージして味を完成させたと言うから、ご飯との相性はこの上ない。

女性客や熟年のお客さまに支持される理由の1つが、これら細やかな心遣いだ。また、自分の体質に合わないからとの理由で、開店時より化学調味料を添加しないラーメンを出している。おかげで祝日にはファミリー層も増えるとか。

派手な風貌で、店の造りも際立っているから、誤解を招くことも。彼はそれを知っている。だからこそラーメンに魂を込め、お客さまに進んで語りかけるのだ。

麺劇場 玄瑛』、店は舞台でお客様は観客、メニューは演目。月に1度、常連の方だけに知らされる創作麺は、短い期間の隠し芸。よほどの金持ちか変人(哲学者?)でなければ、こんなに手が込んだことを1年、2年とやり続けられるわけがない。

店主は開店以来、1日も休まず檜舞台に立ち続ける。これまでも、おそらくこれからも、試行錯誤と葛藤は繰り返されるだろう。そうやって練り込んだ分だけ、味わいは深くなる。どこにもない、誰も真似のできない空間で味わう玄瑛のラーメン。通好みの店である。



麺劇場 玄瑛
住所:福岡市中央区薬院2-16-3
TEL:092-732-6100
定休日:なし
営業時間:月~土11:30~14:00、18:00~翌1:00
日・祝11:30~22:00
売切次第終了

入江 瑛起さん

麺劇場 玄瑛
店主
入江 瑛起さん
IRIE HIDEKI

1972年、熊本県菊鹿町に生まれる。興信所勤めをしていた20代前半、たまたま出会ったオヤジの生き方に惹かれ、ラーメン屋を志す。『ラーメン天和』に て5年修業し、2001年4月、福岡県宮田町にラーメン店『玄黄』を開店。2003年11月『麺劇場 玄瑛』をオープンし、今日に至る。