ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.52 一九ラーメン 老司店

福岡市を中心に8軒の『一九ラーメン』が点在する。大橋が本店で、全店ともに親戚すじによる経営。どの店も「とんこつラーメンのおいしい店」として、古くから親しまれている。その老司店を預かる岩井満則さんを訪ねた。ラーメンが大好きなラーメン屋の息子、今でも母親に頭が上がらないという岩井さんだ。

白い上っぱりにスニーカー、洗いざらしのタオルを頭に巻いて、今日も笑顔で店に立つ岩井満則さん。2歳の頃に両親がラーメン屋を始めたというから、40年以上も歴史ある店の2代目だ。

「一から九、始めから終わりまでよろしくお願いします」との願いを込めた『一九ラーメン』が、老司四ツ角に開店した当初は、幹線沿いにラーメン屋は皆無に等しかった。岩井さんが小学校の頃に、店を現在地に移し、それから30年近く『一九ラーメン』と墨書された髭文字の暖簾が、道行く人の足を止めている。

「大学では物理を学んでいました。卒業したら研究者になりたかったし、いそいで就職せずとも1~2年くらい欧米を旅するのもいいかな、くらいに考えていたんですよ」

両親に反対されることもなく、のんびり跡を継ぐはずだったが、父親の急病で卒業間近に慌しく店に入ることになる。

「就職活動の一環でTDKやホンダなどに企業訪問したりしていましたが、継ぐ時期が早くなっただけのことです。迷いや未練はありませんでした」

子どもが小銭を握って食べに行ける店が理想

ワンタン麺は幼少期からの好物で、東京在学中は下宿にスープをクール便で送ってもらい、友人を招いてラーメンでもてなすようなこともしていた。

そんな岩井さんは、今も「自分が食べたいラーメンを毎日つくることができる幸せ」を感じているという。営業時間の合間、店舗の奥にある調理場にスープの出来を見に行き、「うん、これはいい!」と思える時が、最高に充実した瞬間だ。

直径19.5センチ、昔ながらの小ぶりなに1杯450円のラーメン。丁寧に下処理した豚のロース骨を高温で熱し、加減を見ながら沸かすとんこつスープは、くどさのないコクが老若男女に人気。

低加水中細ストレート麺は1日寝かせたものを使う。豚バラチャーシューと博多ネギが乗った、とてもシンプルで親しみ深いラーメンだ。営業マンや年輩のご夫婦、子どもを連れた若い母親など、様々な層の客がうれしそうにをすすっている。

「僕の中のラーメン屋の理想像は、子どもが小銭を握って食べに行ける店なんです。そんな店だったら、学生さんやご家族連れも安心していけるでしょ」

2基の羽釜を前に61歳になる母上と共に麺あげをする岩井さん。

「この年になって、いまだに『満則ちゃん』と呼ばれます。ありがたいと思わなきゃね。母にはあと30年はがんばってほしい。僕もその分がんばりますから(笑)」

元気な声が飛び交う店内は、清潔感とやさしさが満ち溢れている。店の歴史と共に歳を数えて来た店主には、暖簾の重さまで心地よさそうだ。自分の目指す「おいしいラーメン」を、楽しみながらつくっている余裕が感じられた。



一九ラーメン 老司店
住所:福岡市南区老司1-33-13
TEL:092-565-0193
定休日:不定休
営業時間:11:00~21:00

岩井 満則さん

有限会社 ワンアンドナイン
店主
岩井 満則さん
IWAI MITSUNORI

1964年、福岡市に生れる。2歳の頃に両親がラーメン屋を始める。東京の大学を卒業間近にして父が病に倒れ、卒業後に実家に入る。母親と共に今日まで店に立つ日々を続けている。ほかに「萬○らーめん」3軒を経営。