ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.55 堺ラーメン塩専門 龍旗信

大阪府堺市に、おいしいと評判の塩ラーメン専門店がある。6年近く前にオープンし、間もなく大阪に塩ラーメンブームを巻き起こした店だ。『龍旗信(りゅうきしん)』、店名からしてきっと強面(こわもて)な男性がやってくるに違いないと、勝手な先入観を抱いて店を訪ねた。力強い筆文字の看板……そこには少年マンガに出てきそうな濃いキャラクターの店主と2人のスタッフが待っていてくれた。

店内14席のコの字型カウンターは、どの席からも厨房の様子がうかがえる。お品書きや雑誌掲載記事が壁に貼られ、意識せずとも勢いと熱意が伝わってくる。

「龍旗信ラーメン」はすっきりとバランスよく盛りつけられ、透き通るスープに沈むが「さぁ、早く箸を付けて」と手招きするようだ。口に広がる魚介系ストレート麺がスープを伴い箸を休める間もなく、いくらでもおなかに納まる心地よさがある。

「10人食べたら9人がおいしいと感じる味を目指して、奇をてらうことなくおいしくつくろうと、それだけを考えてやっています」

と松原さん。ムール貝干しごぼう豆苗(えんどう豆の新芽)など、ラーメン屋があまり使わない食材を用いているのは、地元でとれた食材をの中の隠れた花形選手にしたいと思ったから。やんちゃばかりしてきた故郷に、自分にできる貢献をしたかったのだ。生まれ育った土地の食べ物がいちばん身体にいいという「身土不二」の考えも、本能的にわかっていたのかもしれない。

「個性は出すが、嫌われない味」がコンセプト

松原さんは東京で4年間、商社勤めをしている。20歳そこいらで何百万、何千万単位のお金を動かした経験が青年に度胸を座らせ、パイオニア精神を宿らせた。

22歳で帰郷後、バラックの集合体でラーメン屋台を開店。とんこつ醤油味のラーメンとおでんや焼き物などを出していた。

しかし、今ひとつ物足りなさを感じていた。ラーメンと真剣に向き合っていたとは言いがたい時期。ラーメン意外にゲーム機やビデオレンタル、アダルトビデオなども扱い出した。事業は思うように成長するどころか、いつしか数千万円の借金を抱えるハメに。債権者からの取り立ても1度や2度ではない。

「もうダメかもしれない。だけど、これに懸けてみる」

と、松原さんが希望を託したもの、それがラーメンだった。サラ金で借り集めた事業資金を元手に、総額150万円で店を造った。コストを抑えるため、できるところは極力自分たちでこしらえた店だ。

味にも真剣に取り組んだ。「個性は出すが、嫌われない味」「まぁまぁ、おいしいわね」が目指すラインだった。

誤解のないよう補足するが、決して消極的だったわけではない。「だんじり」で知られる激しい気質の土地柄で、よりシビアな大阪のおばちゃんにはじかれる味 では、存続は難しいと考えたのだ。通常は10人中9人が満足する味なんて有り得ないと思う。松原さんの中、そのハイレベルな目標をクリアする味が、この 「龍旗信ラーメン」なのだ。

書きたいことはたくさんあるが、あとは実際に堺に出向いて自身で味わって欲しい。季節ごとの地元食材を使って提供する創作ラーメンも見逃せない。贅沢な素材が麺に乗るラーメンに、価格以上の満足感が得られるだろう。



堺ラーメン塩専門 龍旗信
住所:大阪府堺市西区浜寺石津町西4-1-19-1F
TEL:072-245-2040
定休日:第3月曜(祝日の場合、営業)
営業時間:11:30~14:00、18:00~翌2:00

松原 龍司さん

堺ラーメン塩専門 龍旗信
店主
松原 龍司さん
MATSUBARA TATSUJI

1969年、松山市に生れる。1歳から大阪は泉州に育ち、18歳で上京し会社員となる。22歳で帰郷し、25歳まで屋台のラーメン屋を営むもふるわず、ビ デオショップ経営に乗り出す。負債がかさんでビデオショップを縮小し、2001年2月ラーメン店「龍旗信」を旗揚げ。今日に至る