ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.63 博多新風 高田直樹さん

全国ネットのテレビ番組で準優勝を勝ち取ったラーメン業界のホープ・高田直樹。博多のラーメン界に新しい風を呼び込みたい―――その決意をそのまま店名と して冠した『博多新風』は、現在も進化を続けている。美味しさの次のステージに挑むべく、一人の人間としてお客と真剣に向き合う高田さんに迫る。

全国ネットのTV番組で一躍人気店へ

2007年1月、福岡・高宮にある一軒のラーメン店の名が全国に轟いた。“究極のラーメン”を徹底的に追求しようというテレビ番組「美味しんぼ塾 ラーメ ン道~日本全県グランプリ~」で、『博多新風』の店主・高田直樹さんは全国の強豪を抑えて準優勝に輝いたのである。看板「新風麺」は、ゲンコツと豚頭でとった上品なとんこつスープに、6、7時間かけてじっくり仕上げた濃厚なマー油でパンチを加えた一杯だ。艶やかに輝く黒いマー油が、目と舌、そして記憶に鮮烈なインパクトを残す。放映から1年以上経つ今も、客足は伸び続けている。

母親の病をきっかけにラーメンの道へ

福岡・春日市のラーメン店『一龍』を営む両親に育てられた。学生寮を経営していたこともあり、高田家の1日はまさに料理一色。寮の朝食作りに始まり、日中 はラーメン店の営業、日が傾きだすと学生たちが食べる晩ご飯の準備に追われる。ごく当たり前の風景として、毎日脇目もふらず料理に打ち込む両親の姿があっ た。迷うことなく調理師専門学校へ進んだ。

卒業を数カ月後に控え、就職活動に励んでいたある日のこと。母親が過労のために倒れた。4人の息子たちに苦労はかけまいと必死に働いてきた体は、想像以上に疲弊していた。もう就職活動どころではない。母に代わり、厨房に立つことになる。

求めれば転機は自ずとやってくる

特に苦心したのがスープだ。実際にやってみると、全く思うように味がでない。季節で変わる微妙な豚の太り具合でダシの出方が違う。父親からのアドバイスを素直に受け入れつつ、一杯のラーメンができ上がるまでの過程を一つひとつ見直しては作り直す日々が続いた。

3年経って、ようやくラーメン職人としての基礎体力がつく。しかし湧きあがってくるのは、できるようになった満足感より「自分の色を出したい」という向上心だった。

「博多は大好きですなんですが、とんこつラーメン一辺倒という部分に限っては、もっといろいろなスタイルやアレンジがあっていいと考えました」

高田さんの足はヒントを求めて、自然と各地のラーメン店へ向いた。とんこつラーメンに、何か新しいものを付加できないか――――その思いは厨房でも、食べ歩きで訪れた店でも常に頭の中に引っ掛かっていた。そんなある日、熊本・人吉で運命的な出会いを果たす。

やっと掴んだ90日間というチャンス

高田さんが訪れた店の名は『好来』。マー油を織り交ぜた真っ黒いスープと、ボリュームたっぷりに盛られた自家製麺が特徴だ。

「見た瞬間、『これだ!』と。斬新なビジュアルと、地に足の着いた安定感のある味わい。麺にまでこだわる職人としての姿勢にも心を打たれました。食べてみ て、その直感は確信に変わりましたね。求めていたものの全てが『好来』にあった」

すぐに熱い思いをぶつけて弟子入りを志願した。しかし、2週間、3週間過ぎても何の音沙汰もない。不安と絶望感に苛まれながら1カ月が経った。「まだやる気があるならどうだ?」。諦めかけていた時、思いがけない吉報が 届いた。

「人の気持ちは変わるのが早い。やっと射止めた本命中の本命ですから、絶対にこのチャンスは逃せないと、連絡を受けて3日のうちに住む場所まで決めてしまいました」

修行期間は3カ月と言い渡された。あっという間に1日が過ぎ去っていく中で、レシピすら持たない昔気質の大将から死にものぐるいで技術を学んだ。修行を終えて福岡に戻った。大将直伝のマー油は、そのまま高田さんの作るラーメンの核に。ようやく想い描いていた理想の一杯が形になった。2005年3月に店を開店。それから2年後、全国ネットのテレビ番組から声が掛かるまでに成長を遂げた。

「期限内で成果を出さなければならなかった3カ月間で、人生が大きく変わりました。少しだけタフになったかな。『美味しんぼ ラーメン道』では、事前準備にはじまり、早朝から深夜まで約12時間にも及ぶ過酷な収録が続きました。最後まで全力を尽くせたのは、あの修行のおかげで しょうね」


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対話が教えてくれた本当の意味でのお客本位

開店当初はラーメンと替え玉、ご飯だけを提供していたが、今ではセットやつけ麺、肉味噌丼、焼豚盛り合わせなどのメニューを取り揃えている。

「最初はお客さまにサービスしたい一心で麺の量を増やしたり、マー油を多めに入れたりしていました。でも、この考えは独りよがりだったんですね。お客さまとの対話を重ねていくうちに、その事実に気付かされたんです」

店側の一方的な押しつけではなく、あくまでお客が本当に求めているものを提供する。メニューの広がりは、高田さんという人間が成長した証でもある。

味の追求だけにはとどまらない。“美味しかった”は当たり前。元気で明るい接客、きれいで居心地が良い空間作り――――“来て良かった”と感じてもらうことに最も喜びを感じている。


アンケート用紙

オープンして間もない時期に、お客さまの声を集めるためにアンケートを実施した。徐々に積み重なっていくアンケートの分だけ、新風のラーメンの厚みもまた増していった。初心を忘れないためにと店内に貼り出されたアンケートが、今日も高田さんを奮い立たせている。

(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)


博多新風
住所:福岡市南区高宮1-4-13パルム高宮1F
TEL:092-524-2426
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)
営業時間:12:00~14:00、18:30~23:00
http://shinpuu.com/

博多新風

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博多新風
店主
高田直樹
(たかだ・なおき)

『有限会社D・C・T』代表取締役。1972年4月8日、福岡県春日市で生まれる。4人兄弟の三男で、長男は『にこにこ小児歯科』、次男は『にこにこ整骨院』と医療関係で独立を果たす。そんな兄たちへの憧れも、ラーメンで独立できた原動力の一つだ。高田さんが独立した後は、四男が『一龍』を切り盛りしてい る。趣味はトライアスロンだが、最近はもっぱら食べ歩きへ。2号店オープンを検討していることもあり、1日に7、8軒巡るなど研究にも力が入る。「将来はとんこつラーメンに馴染みがない地域で、とんこつの魅力を伝えていきたい」と夢は膨らむばかり。イケメンの取材で取り上げられたこともある甘いフェイスの高田さんを目当てに通う女性ファンも多い。