ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.65 博多一幸舎 吉村 幸助さん

2004年3月の開業以来、わずか4年足らずで全国区の人気店へと駆け上がった『博多一幸舎』。「美味しい餃子が作りたい」と、本業である建築業のかたわら餃子店で手伝いをしていた吉村幸助さんは、瞬く間にラーメン業界の若きホープとなった。順風満帆に思えるラーメン人生。しかし、瞳の奥には、修羅場を乗り越えた強さと、さらに上を目指そうというどん欲さが伺える。「商売の怖さを知った分、臆病になった」という言葉の真意とは。

出店を通じて知った商売の怖さ

百発百中の射撃を想像してみてほしい。『博多一幸舎』は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げた。ラーメンブームが手伝って、毎週のようにテレビや雑誌が取材に来ていた。売上げは当然うなぎのぼりだ。当時29歳だった吉村幸助さんは、勢いに乗って、相次ぐ出店を決めた。店舗数はみるみるうちに全国6店舗にふくらんだ。
しかし、徐々に歪みが生じた。屋台骨を支えるスタッフが十分に育っていなかったのである。ただでさえ現場は従業員の育成に手一杯だった。しかし、各店の店長クラスは新規店舗の立ち上げに追われる。内部は崩壊寸前となっていた。

「結果として、信頼していた優秀な仲間とも決別することになりました。人がいなければ、店は立ちゆかない。骨身に染みました」

これを機に、それまで以上にスタッフへ愛情を注ぐようになった。技術はもちろん、人間力も重視し、スタッフ本人が精神的にも成長できるように接している。
1号店を出店した頃に比べると、ラーメン職人としての技量は確かに上がった。同時に美味いラーメンを出すだけでは駄目だということも学んだ。

「商売の怖さを知ったので、昔のように勢いにまかせて出店しません。そういう意味では臆病になっていますね。今は教訓を生かし、スタッフありきの店作りに全店で取り組んでいます」

餃子との出会いをきっかけに飲食業へ

もともとラーメン屋をやろうとはつゆほどにも思っていなかった。社会に出て、最初に身を置いたのは建築業だ。食べることは好きだったが、料理を自分でつくることはほとんどない。ある日、心から美味いと思える餃子に出会った。自分で作れるようになりたいと思い、仕事を終えた後は一直線に店へ向かい修行に打ち込んだ。

「作れるようになってくると面白くて、面白くて。僕の料理をお客さんが美味しそうに食べてくれる。料理ってこんなに楽しいものなのかと感動しました」


建築業から一転、本格的に飲食業界に足を踏み入れた。

挑戦心から得られた財産

ある日、餃子店のオーナーから思いがけない相談が持ちかけられる。オーナーの友人が『ラーメンスタジアム』(福岡市・住吉)に出店するから、そこで店長として働いてみないかという提案だった。

「もともとは餃子が好きで入った飲食業ですから迷いました。ただ、僕の性格上、どうしてもやってみたいという気持ちが先にくる。よし、チャレンジしてみようと」

2001年、『ラーメンスタジアム』のグランドオープン時は、目の回るような忙しさだった。しかし、当時の様子を振り返っても、大変だった思い出はない。頭に残っているのは、充実した毎日を過ごしていたという記憶だけだ。全国の名だたるラーメン店主たちが持つ「自店の味を広く伝えたい」というラーメンに対する熱い想い、「地域の代表としてやって来た」という自負と揺るぎない自信に日々感化された。
『ラーメンスタジアム』という空間を借りて情報交換できたことも大きな収穫だ。仕事の合間をぬい、見聞きしたテクニックを試す。職人としてのスキルは飛躍的に向上した。

心が通い合った仲間たちと共にさらなる高みを目指す

『ラーメンスタジアム』に店を構えていたラーメン店で03年11月まで働いた後、独立。04年、福岡市・大名に『博多一幸舎』を構える。もっとも苦心したのが、味の軸を決めること。博多らしい味を保ちつつ、他にないラーメンを生み出すことに心血を注いだ。トレンドを追うのではなく、オリジナリティにこだわる。完成したのが、久留米ラーメンのインパクトを兼ね備えながらも、後味にキレがある一杯。従来の「濃厚」「こってり」というとんこつラーメンのイメージを覆すのが狙いだ。ふたつの大羽釜を駆使して作る深いコクと豊かな風味が持ち味のスープは幅広い層から支持を得た。


吉村さんイチオシの味玉ネギチャーシューメン1050円

ラーメンは650円~。餃子やご飯が付くセットも人気が高い


そして32歳、新たなる一歩を踏み出す。とんこつラーメンのメッカ・博多に一石を投じようと、つけ麺を看板商品に据えた博多初のつけ麺専門店『博多元助』 を世に送り出した。厨房で腕を振るうのは吉村さん自身だ。ラーメン職人として自らに課した命題が、とんこつラーメン一色という博多のシーンを変えること。 わずか8席、路地裏にひっそりと佇む店には、極太の自家製麺を採用した「濃厚豚骨魚介つけ麺」を求める客が後を絶たない。時を同じくして、『博多一幸舎』 でも全店で自家製麺を取り入れた。さらに完成度の高い商品を目指す気持ちに終わりはない。


つけ麺は850円~。写真は一番人気の特製つけ麺1050円


射撃とは一人で挑む競技だ。吉村さんにとってもまた、これまでは孤独な戦いだったのかもしれない。しかし、今は戦いの舞台へ力強く送り出してくれる頼もしい仲間がいる。これからの狙いも外れそうにない。


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(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)


博多一幸舎 大名店
住所:福岡市中央区大名1-4-22
TEL:092-732-5536
定休日:なし
営業時間:11:30~25:00
(日曜、祝日は〜24:00)
http://www.ikkousha.com
博多元助
住所:福岡市中央区薬院2-2-2
TEL:092-714-7739
定休日:なし
営業時間:11:30~23:00
(スープが無くなり次第終了)
http://www.gensuke.net

博多一幸舎 大名店

吉村幸助さん

博多一幸舎
店主
吉村幸助
(よしむら・こうすけ)

『博多一幸舎』店主。昭和51年、福岡市南区で生まれる。小料理屋を営む母親の料理を食べて育ってきたこともあり、昔から食べることが大好き。高校までモ トクロスをしていたが、現在の趣味は「味の研究」と根っからの職人気質だ。『博多一幸舎』は現在、全国に6店舗を展開。2008年11月には『博多元助』 が『ラーメンスタジアム』に期間限定で出店する。『ラーメンスタジアム』だけのオリジナルメニューも登場予定。