ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.70 らーめん雷蔵 中村 淳さん

中村淳にとってラーメンは、今も昔も一番身近にあるごちそうだ。学生時代、クラブ活動の後に食べた一杯は忘れられない青春の味。社会人になって営業回りの途中に立ち寄ったラーメン店は、仕事の疲れを吹き飛ばすオアシスのような存在だった。そしていつしか、ラーメンは自身の人生そのものとなる。独学でラーメン創作に挑んだ男のポリシーは、「ポリシーを持たないこと」だった。

一つとして同じ味のラーメンはない

食べ盛りの中村少年は父親に連れられ、よく近所のラーメン店に出掛けた。大人ぶって「旨い、まずい」と批評するのが楽しい。自分で食事代を払うようになると、ラーメン店の選び方に自分なりのルールができた。気に入った店を見つけたらとことん通い倒すのが中村流のラーメンの愛し方だ。

「ひと口にラーメンといっても、店ごとに味がまるで違う。一つとして同じものがない。幼いながらに不思議な食べ物だなと思っていました」

毎日食べてもいいくらいの大好物だったが、ラーメン店を始めようとまでは思わなかった。地元の大学を卒業して営業職に就いたが、売り上げばかりを求める仕事にやりがいが見いだせない。そんな時も心の拠り所だったのは、営業回りの合間に食べるラーメンだった。県内を回っていた中村は美味いという評判の店には必ず足を運び、自分の舌で味を確かめた。美味いラーメンがあり、そこには笑顔がある。シンプルだが、あたたかいラーメン店の存在が愛おしく感じた。中村は職を辞め、開業を志す。

まだ見ぬ理想の味を求めて試行錯誤

理想としたのはパンチが効いた豚骨ラーメンだ。開業の軍資金を貯めるためにアルバイトしながら、暇さえあれば自宅のキッチンでラーメンを試作し続けた。

「正直なところ、最初はなんとかなるという軽い気持ちだったんです。ところが、なんともならない(笑)。足し算も分からない幼稚園児がかけ算に挑むようなものでした」

ラーメンを完成させるまでの過程は、学者の研究と通じるものがある。スープとトッピング、麺の組み合わせは星の数ほどある。どんな味になるのか見当がつかないため、頭骨やゲンコツなど、手に入った部位を片っ端から一つひとつ炊いてそれぞれの特徴をノートに控えた。炊き時間の長さで味が変わることを知ると、時計をチェックしながら煮えたぎる鍋と向き合う。1種類の骨で仕上げるか。それとも数種をブレンドするか。どんな醤油を選び、どれくらい効かせるか———気の遠くなるような作業だった。

「理論的には上手くいくはずなのに再現できない。何度もくじけそうになりましたが、テボや暖簾を買って自分なりにテンションを保てるように工夫しました」

2年の歳月を経て、ようやく自分が求めるスープが完成。28歳、念願の店を構える。

良くなるためならどんな意見も受け入れる

満を持してオープンしたものの、当初はラーメンの味も、オペレーションも散々だった。知人たちからも苦言ばかりが聞こえてくる。中村はその都度、すぐに問題点を改善した。現在提供しているラーメンは、豚頭骨だけを20時間炊いて作る高濃度の豚骨スープが特徴だ。コラーゲンを豊富に含み、口当たりもいい。

らーめん雷蔵


「もともと背脂を入れていましたが、仕込みに手間がかかる割に費用対効果が低かったので取りやめました。極細麺を細麺へ、スープのとり方、骨の分量も変えています。大きな軸はブレていませんが、全てにおいて改善していますね」

らーめん雷蔵


お客の意見にも積極的に耳を向けた。食べ放題の日替り総菜、子供用のミニラーメン、夜の晩酌セット、営業時間の延長など、良くなるためなら何でも実践した。中村はまるで竹のように、風を受ければしなやかに曲がり、折れることなく元に戻る。

らーめん雷蔵 お子様セット


「これがオレだ、というようなポリシーは全くありません。良くなるのであれば、誰の意見でも聞きますし、どんどん変わっていい」

売上げは徐々に上昇し、翌年には博多区諸岡へ、2年後には同区中洲へと出店。ロードサイドにある2店舗の業績は好調だったが、中洲店はわずか半年で閉店となった。中村は敗因を「勢いに任せて出店してしまった点だ」と分析する。スタッフが十分に育っておらず、繁華街での営業にもノウハウがなかった。

「中心地に店を出したいという憧れだけが先走ってしまっていた。今はロードサイドにもう1店舗出して足場を固める計画です。機が熟したら必ずリベンジします。夢ですか? いつかホノルルに店を出したいですね」

ラーメンの道に身を投じて3年。中村は失敗を糧に新たな一歩を踏み出す。

(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)


らーめん雷蔵 新宮本店
住所:福岡県糟屋郡新宮町原上817-1
TEL:092-962-1777
定休日:無休
営業:11:00~翌3:00


らーめん雷蔵 諸岡店
住所:福岡市博多区諸岡2-10-28
TEL:092-502-8880
定休日:水曜
営業:11:00~翌3:00

らーめん雷蔵

らーめん雷蔵・中村 淳


らーめん雷蔵
中村 淳
(なかむら・あつし)

「株式会社ジーマックスフーズ 」取締役。昭和53年3月、福岡県・宗像市で生まれる。小学4年生から高校を卒業するまでバレーボールに打ち込んだ体育会系。趣味はゴルフとテニス。バイクもこよなく愛し、オフの日には愛車にまたがってツーリングへ繰り出す。中洲店に変わる新しい店舗をロードサイドに出店するため、各地で土地の情報を収集中。