ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.8 井出商店 井出 紀生

ここ数年、何かと話題の和歌山ラーメン(地元では“中華そば”と呼ぶ)。昨年の正月番組でラーメン王選手権の第1位に輝いた井出商店は、その中でも群を抜く超繁盛店。20人も座れば満員になる店で、1日1,000杯もの中華そばが出るという。行列が出来ることも珍しくない。

母が始めた井出商店の屋台

「早くに父を亡くし小学校4年生頃から新聞配達をしていました。お袋が『井出商店』という名で商売をしたい、と中華そば屋台を始めたんです。お袋は昼間別の仕事をして、夕方から屋台。夜中の1時過ぎまで仕事です。自分も時には屋台を押したりしていました。冬は寒かった。姉たちもよく手伝っていました」

とご主人の井出紀生さん。『井出商店』の味は、紀生さんが昭和28年創業時に見い出していた味で、45年を経た現在”井出系“と呼ばれ、地元でも支持されている。

ご主人は子供の頃から

中華そば屋は大変だから、早く社会に出てお金儲けのできる仕事に就こう。そして、お袋に楽をさせてあげよう」

と考えていた。学校を卒業すると、トラックの運転手をしたり、ガス工事をしたり、中華そばと無縁の仕事ばかり選んだ。

「何をやってもうまいこといかんのですよ。それで家へ戻ったんだけど、楽をさせたいはずのお袋がひとりで店を守っていた。いつまでも苦労はさせられない、と店を手伝わせてもらうことにしました。ちゃんと継いだのは30歳のときです」

24時間かけてつくるトンコツ醤油味

井出商店中華そばは、1杯、500円。そのスープは24時間、豚骨鶏ガラを炊いてつくる。濃厚なのにしつこさがなく、まろやかなトンコツ醤油味。コクを出すのに難儀するのだそう。

店は現在、ご主人と奥さん、そして2人の娘さんの4人で切り盛りしている。

「不器用なもんで、この味を守っていくことに全力を注いでいます。県外からもお客さんが増えて、家族の助けがあるからやれています。わざわざ食べに来てくれるお客さんのためにも、気を入れていいものをつくらないとね」

と深夜まで厨房に立つご主人。時にはお母さんが、スープの火加減を見てくれたりすることもある。

83歳になって尚、元気な母に見守られて、井出商店中華そばは変わらぬ味を貫いている。



井出商店
住所:和歌山市田中町4-84
TEL:073-424-1689
営業時間:12:00~24:00
定休日:木曜日

 井出商店

井出 紀生さん

有限会社 井出商店
代表取締役
井出 紀生さん

昭和18年2月11日生まれ。わずか7歳で父が死去。残された母は、女手ひとつで中華そばの屋台を引くことに。そんな母を、姉や妹たちと一緒によく手伝った。「紀生節に生れたから“紀生”なんだけどね」と笑う。