ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.13 いのたに

今年の9月より来年5月末まで期間限定で新横浜ラーメン博物館に出店中の徳島中華そばいのたに』。博物館店を創業者、励さんと奥さまが、徳島の本店を2代目店主、貴雄さんが守っている。ほかに、フランチャイズ店が徳島に2軒。新たに脚光を浴びるラーメン処、徳島での創業からの話を聞いた。

ちまたでは「四国=うどん」のイメージが強いが、徳島はうどんより中華そばラーメン)の文化圏である。スープは白・黒・黄色の3タイプに大別され、『いのたに』の中華そばは、黒いスープに短めの細麺が特徴。

製粉会社に勤めていた猪谷励さんは、出張で和歌山や岡山、大阪などへ出向くと、行く先々で食べていたラーメン好きが高じて、いつしか「自分でやるなら、ラーメン中華そば)を一生の仕事にしたい」と思うようになった。

うどんを打ちながらラーメンを開発

それから間もなく勤めを辞め、独学で最初は手打ちうどんの店を始めた。中華そばへの想い入れが深く、納得のいく味が完成するまでは商売として考えられなかったのだそう。営業の傍ら、中華そばの試作は3年ほど続いた。

「針のむしろに座らされているような感覚でした。いくらやってもイメージする味が出なくてね。夜、寝る前まで試作を重ね、2~3時間床についてはまた起き出し、ああでもない、こうでもないとやっていました」

と語るご主人。それほどの執念で挑んだ『中華そば』とは? ご主人曰く

「胃が弱くても毎日食べられる、自分の身体に合う中華そばをつくりたかった。脂っこくなくてあっさりしたのをね」

斬新なオリジナルラーメンが誕生

独自のスープに、自家製細麺。製粉会社での経験も役に立った。早い時期から製麺機を導入し、ひとすすりで食べられる20センチほどの短めのをつくった。すき焼き風味に味付けしたバラ肉に乗せ、月見うどんにヒントを得て生卵を落とすようにしたのも猪谷さん。

熱心なのは、味の探究ばかりではない。機械類の展示会に積極的に出向き、「これは便利」と思った食券の自動販売機やご飯を盛る機械(ホットランチャー)など逸早く取り入れた。そんな猪谷さんだから、「徳島中華そばのニューウェーブ」と評されることも多かった。

ご当地ラーメンブームで徳島に注目が集まり、新横浜ラーメン博物館への出店(期間限定)を機に、その名も全国区に広まった。

「博物館店も徳島の本店もたいへんですけど、来年5月までは本店と気持ちを一つにして、がんばります。ほかとは違う徳島中華そばを、首都圏の皆さんにも味わってほしいですからね」

と意欲的な猪谷さんである。



いのたに
本店
住所:徳島市西大工町4-25
TEL:088-653-1482
営業時間:10:30~17:00
定休日:月曜日

いのたに

猪谷 励さん

いのたに
猪谷 励さん

昭和8年、徳島県海部郡に生まれる。遠洋漁業の船乗りや製粉会社の営業を経験し、うどん屋を始める。昭和40年から中華そば1本にしぼり、徐々に地元でも評判の店に。自らの体験を踏まえ「身体あっての商売」と、本店の閉店時間は早い。