ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.35 たけちゃんにぼしらぁ麺

東京・調布にある『たけちゃんにぼしらぁ麺』は、坂本鐐一さんが48歳で始めたラーメン屋。スタートは1台のワゴン屋台。それから、早13年。環状9号線の拡張により、近々店を移転する計画もあるらしい。「俺のときはさ、力の源通信じゃなくて『力の坂本通信』にしたら、どう?」と、今日も今日とて陽気な坂本さんである。

見ず知らずの他人の借金を肩代わりする形でラーメン屋を始めた坂本さん。ミュージシャンからの転向を考えていた彼は、産業廃棄物回収の仕事をしていた。

友人が人に貸したお金を集金に行くのに同行したものの、相手は行方不明。そこに置き去りにされた古いワゴン車に興味を覚え、落ち込む友人を励ますべく、そ の車を修理してラーメン屋台を始めたのだ。考えられないような話だが、坂本さんはおよそ50万円の価値もない車で稼ぎ、300万円以上の穴埋めをした。

「日銭を稼ぐ商売で、最初は月々渡す車代もキツかったけど、だんだん売り上げがよくたっていってサ。屋台時代でも調子のいいときは一晩で15万円くらい売ってたからね」

と飄々としている。

武勇伝はそればかりではない。移動販売のワゴン屋台、「誰の許しを得てここで商売してるんだ」とチンピラが畳み掛ければ、堂々とオモテにでて「総長だよ」とシラを切り、「駐車違反だ」と注意を促す警察官には真っ向から立ち向かう。

「ヤクザは来るし、お巡りさんもしょっちゅうやって来る。どっちも面白かったね。最後はヤクザもお巡りさんも根負けしてサ。あの時から『たけちゃんにぼしらぁ麺』は市民権を得た。住民からの通報がない限り、との条件付きで調布警察からお目溢しが降りたもんね」

本当にそんなことがあるのだろうか??と疑いたくなるが、坂本さんに限って言えば、そんなことがあってしまうのだ。屋台から現在の路面店に変わっても、引き続きお客として通ってくれた親分肌の男が「オヤジ、威勢がいいもんな」と一目置くほどの人物なのだ。

全国から取り寄せた煮干しをブレンド

「獣臭が苦手」という坂本さんのラーメンは、魚系のダシスープをとっている。店名に『にぼしらぁ麺』と冠したのは、逆に煮干し嫌いな人に迷惑をかけないように、との配慮から。

材料は日本各地から試験的に取り寄せて、自分の納得いくものを使用する。これまでに煮干しもいろいろ変えてきた。最近は、九州の煮干しと長崎・平戸のやきアゴ、関西の煮干し(関西の水は軟水なので煮干しの味がやわらかい)をブレンドしてダシをとる。煮干しに合わせて固めにあげる。

「東京ではシャキシャキしたが好まれるからね」

と、坂本さん好みのしっかりした麺を食べさせる。通常でも太麺が、平打ち麺やつけ麺ともなれば、もっと太い。噛めば噛むほど、スープの味が引き立つのだ。『わさび塩ラーメン』や『しそ塩ラーメン』『黒五油そば』など、独自のメニューも随時登場している。

「飽きっぽいからね。ある程度までいくと、違うのがやりたくなるんだよ」

と言う坂本さんだが、お客さまにしてみれば「次は何を……」と期待できるのだ。

そんな彼の仕事ぶりが買われ、昨年2月~3月にNHKで放送された月曜ドラマシリーズ『風子のラーメン』では、技術指導員として招かれ、女優・市原悦子さんを扮する風子さんたちに、ラーメンの作り方を教えた。

「NHKだからさ、坂本鐐一って名前しか出ないんだよね。店の宣伝にならないの。でも、出演者もスタッフも俺のラーメンをおいしい、って食べてくれるんだよ。それでいいか、って(笑)」

とちょっと誇らし気な表情。とても61歳とは思えない溌溂とした出で立ちである。『たけちゃんにぼしらぁ麺』は、そんな坂本さんと、坂本さんのラーメンをこよなく愛するファンの人たちが常連客となって、日々完売するのだ。



たけちゃんにぼしらぁ麺
住所:東京都調布市深大寺元町5-2-9
TEL:0424-41-2740
定休日:なし
営業時間:11:30~14:45、18:00~21:45

坂本 鐐一さん

たけちゃんにぼしらぁ麺
店主
坂本 鐐一さん
SAKAMOTO RYOICHI

1942年、東京向島に生まれる。ミュージシャンを経て平成2年、屋台のラーメン屋をスタート。平成6年より現在地で店舗営業を開始する。