ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.41 ぽっぽっ屋

昼と夕暮れ時になると、絵に描いたように連日行列ができるラーメン屋がある。『ぽっぽっ屋』は、店主・宮本恵蔵さんが馬喰町のビジネス街に「店は自分ひとりで、お客さまに"ぽつぽつ"と来ていただきながらやっていければいいと思ってはじめた」という、カウンターのみ8席の瀟洒な店。屋号は字面から「ぽっぽ屋」と呼ばれることが多い。

ラーメン屋を志したのは、蒲田と堀切の『ラーメン二郎』で働いたことがきっかけである。もともとラーメンが好きだったため、知り合いのツテで『二郎』に最初はアルバイトで入った。そして、日々、ラーメンづくりに取り組む中で、お客さまからの「おいしかったよ。ごちそうさま」の声に喜びを覚え、徐々にその魅力に引き込まれていった。

宮本恵蔵さんがこの地に店を構えたのは2000年5月8日のこと。恩師から暖簾分けの話もいただいたが、味をそのまま引き継ぐのではなく、自分のスタイルで味に変化を加えていきたいと思い、屋号を違えての出店とした。

ぽっぽっ屋』で提供するのは『らーめん』『つけめん』『油めん』、夜の部はそれに『塩らーめん』が加わり、夏季限定で『冷しサラダめん』もいただくことができる。席数のわりにメニューが豊富な理由を

「その都度、いろいろなことに挑戦してみたいんです」

と宮本さんは言う

店で出す「らーめん」は『二郎』時代に覚えたラーメンのアレンジ型。背油たっぷりのスープ豚骨をベースにモミジや野菜類を大量に煮込むことで、見た目ほどしつこさは感じさせない。

好きだからやれる仕事、好きだけではやれない仕事

そして、何と言っても『ぽっぽっ屋』の特徴はにある。低加水極太麺を固茹でし、それでいてモチモチ感が味わえる、当人いわく

「アゴが疲れるゴムみたいな

なのだ。トッピングの茹で野菜に加え、玉ネギみじん切りを乗せるのも店主のアイデアによる。そのクセになる印象的なラーメンを求め、多くのお客さまが足繁く通う。

オフィス街に暖簾を掲げたおかげで、昼の3時間半は切れ間なく店の外まで列が延びる。なんと20回転することも珍しくない。もちろん夜の営業もその繰り返しである。

1人で"ぽつぽつ"と営むはずが、店はスタッフを含む4人と、アルバイトで回している。30代半ば、精神的にも体力的にも今が一番頑張れる時。あちこちの店の味を食べ歩きながら研究することで、次なるアイデアが浮かび、店のメニューに登場させている。

「渋谷の『麺の坊 砦』の中坪さんと知り合ったことがきっかけで、ラーメン屋さんの横のつながりがたくさんできました。『ちばき屋』さん、『くじら軒』さん始め、九州の若手のラーメン屋さんたちとも親交があります」

彼が今熱心に取り組んでいること。それは、「支那そば」を覚え、商品として通用するまでに高めること。スープのとり方、レシピなど独自に研究し、交流のあった支那そばの大家『ちばき屋』の千葉社長の胸を借りた。大御所である。身の程知らず、無礼はわかった上で

支那そばをつくりたいんです。自分なりにつくってみたので、味をみていただけませんでしょうか」

と持ち込んだ。すると、味の評価のみならず、つくり方のアドバイスまでいただいた。何度か試作を持ち込むうちに、『ちばき屋』の厨房に入らせてもらうまでに。習う側の必死が先輩に伝わったのだ。

この6月には中国のラーメン食べ歩きにも同行させてもらった。そうやって、肌で感じるラーメン職人である諸先輩の頑張りに比べると、

「自分がこれまでやってきた4年間など苦労とは言えない」

とにこやかに言う。全力で打ち込んでこれたのは「おいしいものをつくり、お客さまに喜んで食べていただきたい」一心のほかにない。

「好きだからやれる仕事」「好きだけではやれない仕事」とは、どちらも宮本さんの口から出たラーメン屋観だ。30代半ば、当面の目標は『ぽっぽっ屋』を安定させ、支那そばの店を出すこと。

「ラーメン屋としても人間としても尊敬できる先輩に巡り会えたことが何よりの宝、ラーメンの奥深さをとことん突き詰めてみたい」

と今日も厨房に立つ宮本さんであった。



ぽっぽっ屋
住所:東京都中央区日本橋小伝馬町16-126
TEL:03-3666-2151
定休日:日祝日
営業時間:11:00~14:00(月~土)、17:00~21:00(月~金)

宮本 恵蔵さん

ぽっぽっ屋
店主
宮本 恵蔵さん
MIYAMOTO KEIZOU

1967年7月、東京都世田谷区生まれ、大学はニューヨーク・ユニバーシティでコンピュータ関連を学び(仕送りの都合で3年半で中退)、帰国後は居酒屋に 勤務した。もともとラーメンが好きだったため、知人の紹介で『ラーメン二郎』で働くことに。3年半勤めて独立。2000年5月に『ぽっぽっ屋』を日本橋に 開店。他に中野新橋に直営店を運営、暖簾分けした店が1軒。通常は日本橋店の厨房に入っている。