某テレビ番組の企画でラーメン店『でび』が渋谷に開店したのは2000年7月19日のこと。翌年には店名を『でびっと』と改め、新展開をはかるデビット伊東こと店主の伊東努さん。2005年には九州に乗り込む計画が進んでいる。「芸能界が舞台なら、ラーメン店も舞台。演じること、お客さまを楽しませること、スピリッツは同じ」と話は始まった。
「九州との縁が深いんですよ」と伊藤さん。生まれは東京だが、父親の郷里は福岡県田川市。記憶をたどれば高校3年の時、福岡大学を受験するため福岡を訪れ、長浜屋台で食べたラーメンが、とんこつラーメンとのなれ初め。
その頃、まさか自分がラーメン屋をするとは予想もしなかった。周知の通り彼の修業先は『博多 一風堂』、久留米で毎年開催されているラーメンフェスティバルには03年、04年と連続出店し、九州ラーメンファンを喜ばせている。
そのフェスティバルのメイン企画として開催された『ラーメンドリームバトル』で、伊東氏は味噌ラーメン『紅珀』を創った。銀賞を受賞し、ステージ上で
「1年がかりで味噌ラーメンを研究し、いろんな味噌を発見できました。歴史をつくるのはこれからで、諸先輩を越えていかなければならないと実感しました。感謝しています」
とコメントした。目上を敬い、年少者にごう慢な態度をとることもなく、常に誰に対しても誠実な姿しか見たことがない。自分という軸にブレがなく、しっかりとした信念のもと、何者にも動じず己の道を切り開く。
きっかけはどうあれ、彼の30代に「ラーメン」というカードが加わり、人間としても男としても、格段に幅が拡がったのではないだろうか。
芸能界もラーメン界もお客を感動させる舞台
ラーメン修業で伊東氏を指導した河原成美は、かつて「彼の味覚センスはしっかりしていて、しかも勘がいい。サービス業のセンスもある」と言っていた。
修行の中で伊東氏はラーメンづくりのノウハウを身に付け、オリジナルのレシピをもとに自分のラーメンを生み出した。ラーメンの品数を増やし、季節メニューを出し、現状に甘んじることなく研鑽を積む日々。ラーメン屋とタレント業の両立。着実に進む店舗展開。スタッフを信じ、育てることも怠らない。
「最初の1カ月はスープをとるのに厨房で寝起きしたし、3カ月はスタッフと24時間一緒にいて、僕が身に付けたラーメンのつくり方を教えました。自分だけでは何もできないから、従業員の力が必要なんです。今でも自分のラーメンを、完成された味だとは思っていません。すべてこれからなんです」
と伊東氏。店にお客様が殺到すると、スタッフには「テレビの影響だから浮き足立つな」と言い、タレントの店だから、自分たちの姿勢を理解してもらうには時間がかかると心している。店のスタッフには
「やんちゃでいてほしい。ラーメン屋さんとしてプロにならなくてもいい。プロを倒す素人でいてほしい」
と店主としての考えを伝えている。2足のわらじ、と頻繁に形容されることについては、
「自分では2足のわらじを履いているつもりはありません。なぜなら芸能界もラーメン界も、自分にとっては同じ舞台だから。役者である僕が店に立つ時、それ は舞台に立つのと同じ感覚です。お客さまに満足してお帰りいただけるように全力を尽くす、それが務めだと思っています。僕のわらじは一足。縁あって足のサ イズより大きなわらじを選んだだけ。せっかく大きいわらじを履いたのだから、それに合う足に成長しなくてはね」
と答えてくれた。
「社会に揉まれ、多くのラーメン職人と接し、とんがっていた自分のカドが取れてきたように思う。理想は無数にあるカドが取れても決して球にならないこと。小さな面が寄り集まる多面的な人間になりたい」
ラーメンにはつくり手の人柄が出るという。「○○のような」とは比喩しにくい『でびっと』のラーメンは、きちんとした主張があって、なおかつ、やさしく温かな味がする。
住所:東京都品川区東中延2-10-10
TEL:03-3782-8029
定休日:無休
営業時間:11:00~22:50(L.O.)
有限会社チームディー
らーめん でびっと
店主
伊東 努さん
ITO TSUTOMU
1966年、東京生まれ。高校卒業後、スイミングスクールのコーチを経て芸能界へ。テレビや舞台で活躍すると同時に、ラーメン店『でびっと』を運営。 2000年夏、テレビ番組の企画が発端となり渋谷にラーメン店『でび』を開店。以降店を増やし、現在は北海道、神奈川、東京に計4軒を運営する。