ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.5 博多らーめん 坫 山本 健壱さん

木の温もりを感じられる店内、和紙に墨で書かれたメニュー……どことなく懐かしさを覚える店の造りと、厨房に立ちこめる湯気。独自のアイデアを凝らした印象深いラーメンは、1度食べたらクセになると評判の店である。

ラーメンという魔物との戦い

「食べる側からつくる側になって初めて、ラーメンの奥の深さや店の大変さがわかったんです。ラーメンを軽くみていたんだろうな。だから、最初は苦労したよ」

と山本店長。とにかく店を成功させなくては、とオープンから1年間は休まなかった。1人で明け方4時、5時まで店を開け、お客様を待った時期もある。

店は自分の子供と思え

困難に直面すると師匠の言葉を支えとした。

「店は自分の子供と同じで、例えどんな愚息でも親がしっかりと愛情を持って育てていけば、いつかきっとまともになる」

繰り返し自分に言い聞かせ、お客様の入りが悪くても、くさらず真面目に一生懸命、ラーメンをつくり続けてきた。自分が一番おいしいと感じるラーメンをつくり続けてきた。自分が一番おいしいと感じるラーメンをお客様にも食べてほしかったし、何よりそれは、師匠から受け継いだ味だった。

ようやく10年

店を開けたのは’86年10月のこと。お世話になった師匠からは「10年経ったら坫に行って、ケン坊のラーメン食べるけん」と釘をさされていた。そんな言葉を「何事も10年続けてこそ本物。途中で弱音を吐いて投げ出すな」という教訓と捉え、ひたすら店を磨いてきた。

そして10年が過ぎ、師匠が本当に坫の暖簾をくぐってくれた時、を上げる手が震えた。10年分の想いを、精魂込めて1杯のラーメンに託した。

「長いこと心に引っかかっていたシコリがようやく吹っ切れ、やっとラーメン屋の仲間入りができたような気がした」。

師匠が自分のラーメンを食べに来てくれたことは、そのくらい大きな喜びだった。

この店一軒で生きていく

以来、ますます自分のラーメンをつくることに意欲を燃やす。”博多らーめん“や焼らーめん”など人気メニュー以外にも、いくつかのアイデアを暖めているらしい。

「自分は不器用な人間だから、店はここ1軒でいいと思っています。この店に来てくださるお客様を大切に、ラーメン屋として最良のもてなしをしたい。俺のラーメンをうまいと言って何度も来てくれる人のために、1杯1杯自分でつくりたいんです」

ラーメン好きには目が離せない、街角のラーメン屋、坫である。



博多らーめん 坫
住所:福岡県福岡市南区大橋1-4-6 1F
TEL:092-552-3826
営業時間:11:30-14:30、16:00-24:00
定休日:月曜日

博多らーめん 坫

山本 健壱さん

店主
山本 健壱さん

高校卒業後、喫茶店勤め、解体業、雀荘経営を経て、’86年1月より、高校時代の先輩の店でラーメン修行をする。その後、同年10月に妻と共に自分の店を始め、現在に至る。