ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.61 博多中華そば まるげん 鈴木克学さん

洋食畑で育った男がゼロから挑む、博多から発信する中華そば。「今の100%の満足は未来の100%ではない」と言い切り、さらなる高みを目指して研鑽を重ねる。『まるげん』の博多中華そばは、博多豚骨ラーメンのように業界の新機軸になりうるのか? 鈴木克学さんに話を聞いた。

「博多の人に愛される中華そば」を目指し、2004年、一軒のラーメン店が産声をあげた。

博多といえば、豚骨ラーメンの聖地である。 鈴木さんが醤油スープの中華そばにこだわる理由とは何だろうか。

一流を目指して洋食の道を邁進

高校を卒業後、『株式会社 デニーズジャパン』に就職するため上京。夢はただひとつ、一流のコックになって、自分の店を構えることだった。

だが、現場での効率を重視したセントラルキッチン業態に物足りなさを感じ、会社を去ることに。

料理を基本から勉強し直したいと、いったん帰福し、『中村調理製菓専門学校』に入学した。

調理師の免許を取った後、再び東京に戻り約10年間、イタリアンや洋食店など5店舗を渡り歩く。しかし、まだ中華そばという4文字は出てこない。

人生を変えた2つのターニングポイント

30歳のとき、社会人になって唯一、飲食以外の仕事をした。解体業だ。日ごとに変わる現場近くのラーメンを頻繁に食べるようになる。

そんなある日、運命を決める1杯に出会った。

「ガツン、と衝撃を受けました」

今も彼が目標として掲げている老舗『荻窪中華そば 春木屋』の中華そばだった。

ガラや野菜、魚介が醸し出す豊かな香り、すっきりとキレのある返し(醤油ダレ)の味わい。

「これまで東京で食べた中華そばは、醤油の味ばかりが先行し、舌に全く合わなかったんですが、この1杯は違った」

一瞬で虜になってしまった。

時を同じくして、もう1つの転機が訪れる。同郷の友人が一緒に飲食店を立ち上げよう、と言うのだ。大喜びし、計画を実行に移すべく準備を整えていた。やっと夢が叶う!

しかし、待っていたのは残酷な現実だった。

「友人と音信不通になったんです。信じられないことですが、騙されてしまったんですね」

夢のためにコツコツと積み立ててきた貯金はもうない。

東京生活は失意のどん底で幕を閉じる。

忘れられないあの味を求めて

32歳の春、故郷に帰った。仕事として選んだのはラーメンだった。洋食のプロフェッショナルとはいえども、ラーメンについては全くの素人である。

「春木屋の中華そばが忘れられなかったんです。福岡には東京以上に豊富で美味しい魚介があるし、ラーメン文化が根付いている。大好きな春木屋スタイルの中華そばを、博多で自分なりに表現したくなったんです」

まず、福岡にある醤油ラーメンの人気店の門を叩いた。

スープの取り方から、接客まで、毎日が発見と勉強の連続である。そのなかで最も刺激を受けたのが、カウンターキッチンによる営業スタイルだった。

長年、客の様子が見えない厨房で料理を続けてきたが、目の前で調理し、客の反応がダイレクトに伝わってくるカウンター商売は、実に刺激的だった。

ラーメンの可能性と、自分の進むべき道を確信し、約2年間の充実した下積み生活に別れを告げた。

ラーメンとの本当の戦いはここから始まった。

全国の専門店を食べ歩き、他ジャンルの料理も研究する。寝食を忘れてラーメンの構造を紐解き、解読していく日々が続く。思い通りの味が出ず、できない自分に苛立つ。

もがき苦しんだ結果、やっと納得のいく1杯が完成した。「博多中華そば」の誕生だ。

豚足鶏ガラからとった肉系ダシに、カツオぶしなどからとる魚介ダシを合わせたWスープ。口に運ぶと、返しの存在感はしっかり。長い道のりの末、ようやく開店の準備が整った。


博多中華そば まるげん

毎日が正念場

朝9時半から深夜3時まで店に詰めて、1杯と向き合う。

「今でも苦心しているのは、毎日同じ味のスープを作るということ」

味を見る自身の体調が良くないとスープにも出てしまうので、健康を気遣うようになった。

新しい味の研究にも余念がない。平打ちストレート卵麺を使う人気の「つけそば」は、由布院で食べた鴨南そばにヒントを得て考案したものだ。つけ汁は「博多中華そば」と同様にWスープ。加水率高めのもっちりとした麺の食感を存分に楽しめる一品は、こうした姿勢の賜物だろう。


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カウンター越しに、客から手厳しい意見をもらうこともある。謙虚に受け止め、日々改善、改良してきた。

「悔しさはありますが、最終的な目標は良いものを作ること。博多の人に愛されるため、研究を重ねないと」

前向きな気持ちを麺に注ぎ込み、アドバイスをくれた客に返す。中華そばは1歩ずつだが、確実に、洗練されていった。

博多ラーメンのニュースタンダードを生み出す

信じるものは救われる、が座右の銘だ。

「今でも葛藤はありますよ。何でこんなこともできないのか、と。でも自分が選んだ道。やるしかない。そうやって今までも乗り越えてきましたから。うちの中華そば博多ラーメンのニュースタンダードに育て上げることが使命です」


(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)


博多中華そば まるげん
住所:福岡市中央区平尾2-2-18シティマンション1F
TEL:092-522-8848
定休日:月曜
営業時間:11:30~23:30、日曜・祝日は~22:00

博多中華そば まるげん

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博多中華そば まるげん
店主
鈴木克学
(すずき・よしたか)

1969 年4月30日、福岡県福岡市南区生まれ。10数年の洋食店、イタリアンでのキャリアを捨て、憧れの中華そばを再現すべく、ラーメンの世界へ。2004年 12月4日「博多中華そばまるげん」を開店。現在に至る。家族は、ラーメン店での修行時代に苦労を共にした奥様"まきちゃん"と、母、妹。まきちゃんが作る豚めし(おにぎり)は、『まるげん』を支える人気メニューの1つ。趣味はサーフィンだったが、開業後はもっぱら食べ歩きに専念。オープンからの3年間で体重は30キロ増。