ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

vol.83 拉麺 空海 柴田 佳幸さん

福岡の中心地・天神から遠く離れた那珂川町に客足の途切れないラーメン店がある。「拉麺 空海」は“7色のラーメン”で人気を獲得し、その後、豚骨スープをベースにした創作ラーメンを次々と発表。屈託のない笑顔がトレードマークの店主・柴田佳幸さんは、今では“豚骨大将”の愛称で親しまれている。創業当時の味を捨て、豚骨ラーメンの可能性に挑む柴田さんの今を切り取る。

記憶に残る7色のラーメン

白、赤、青、黄、茶、黒、緑のいずれかの色を言えば通じる。7色のラーメンこそ「拉麺 空海」の看板メニューだ。開業当時は現在の白と赤にあたる「豚骨ラーメン」と「ピリ辛ラーメン」を2枚看板としていた。ただ、柴田佳幸さんの胸には日一日と不安が募っていった。
「このままでは埋もれてしまうと思いました。他にはない個性を出したいと考えていくうちに、色で展開するラーメンを思いついたんです」
4色、5色ではインパクトに欠けると柴田さんは考えた。やるからには絶対に7つ揃えようと決意した。白は豚頭骨だけを20時間以上炊いてとる白濁スープの豚骨ラーメン。白をベースに、赤は唐辛子、黒にはマー油が入る。黄は10種のスパイスで、緑は大盛りの野菜でアレンジ。青は五島列島で獲れたアジを使った煮干しを、茶は赤と黒をバランス良く織り交ぜる。「来店回数が増えれば他の味も試してみようと思うに違いない」と永久に使えるトッピング無料サービス券を配るようにした。7色のラーメンはすぐに話題となり、テレビや雑誌で取り上げられるようになった。

白豚骨ラーメン 550円

つべこべ言っても始まらない

幼い頃から昔から目標があると燃えるタイプだった。料理人を志したのは、高校時代に人気だったテレビ番組「料理の鉄人」がきっかけだった。卒業後、北九州プリンスホテルの中華レストランに就職。料理長から「俺は23歳で料理長になった。柴田も目指してみないか」と言われ、目標に掲げた。入ってきた後輩が次々とすぐに辞めていく厳しい職場だった。柴田さんは3年間、一度も後輩を持つことはなかった。
転機が訪れたのは24歳の時だった。「ラーメン暖暮」を営む奥さんの親戚から「手伝ってほしい」と頼まれた。直感で「面白そうだ」と思った。柴田さんが働くようになってすぐに地元福岡で放送されたテレビ番組のラーメンランキングで1位に選ばれた。それからは連日、開店前に100メートルもの行列ができ、終日、満席の状態が続く。疲労困憊の状態が何カ月も続いたが、弱音を吐くことはなかった。
「つべこべ言っても何も始まらない。キツいと口に出したところで一つも楽にはならないんです」
もともとラーメンに興味があったわけではなかっただけに、一杯のラーメンを求めて長い列ができる光景を目の当たりにして、驚きと感動を覚えた。柴田さんの考えは大きく変わった。作り続けていく中で自分の味を表現してみたい―—いつしかそんな目標ができていた。28歳で独立。2004年6月、福岡県・那珂川町に「拉麺 空海」を開業した。

過去を捨ててゼロから挑む

店を始めて2年が経った頃を境に、柴田さんは変わった。それまでは自分の殻に閉じこもり、積極的に外に出て行くことはなかった。今では美味いラーメンがあると聞けば飛んで行き、ラーメンフリークたちと交流を深めるために100km離れた熊本へも足を運ぶ。
きっかけは盟友からの誘いだった。「らーめん四郎」店主・黒田光四郎さんに声を掛けられ、一緒に食べ歩きに回るようになる。柴田さんは驚いた。豚骨一つとってもさまざまな味があった。中でもパンチの効いた濃厚な豚骨ラーメンは「これを作ってみたい」と思えるほど印象に残った。それまでの味を捨て、思い切ってベースをこってりスープに切り替える。その結果、7色のラーメンにはメリハリが出た。それまで通っていた常連客からも評判がよかった。
「出会いがあったからこそ僕は変われました。もっと多くの人と触れ合って、知識や経験を吸収しようと決めたんです」
雑餉隈に出した支店(現在は閉店)では、常に限定ラーメンを発表し、その時の自分の精一杯をぶつけた。東京でブームの兆しがあった油そばをいち早く提供したこともあれば、パイナップルの果実をくりぬいた器で楽しむつけ麺で周囲を驚かせたこともあった。ブログやツイッターを活用し、情報をこまめに発信し、地元・福岡のラーメンフリークたちとも交流を深めるようになった。
「限定ラーメンも、七色のラーメンも、ベースはすべて豚骨スープです。これからも豚骨ラーメンの可能性を追求したい」

(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)

拉麺 空海(らーめん くうかい)
住所:福岡県筑紫郡那珂川町松木1-1
TEL:092-953-7111
定休:不定
営業:11:00〜15:00、18:00〜24:00、土日祝は11:00〜24:00


拉麺 空海 柴田 佳幸(しばた・よしゆき)さん

拉麺 空海
柴田 佳幸
(しばた・よしゆき))
拉麺 空海・店主。1976年3月、福岡県・糟屋郡で生まれる。中学校では陸上部に所属。高校では未経験ながらサッカー部に入部し、フォワードのポジションを勝ち取る。昔からチャレンジを好み、好奇心旺盛だったという。現在の趣味は食べ歩き。友人であり、ライバルでもある「らーめん四郎」の店主・黒田光四郎さんと休日を利用してラーメンツアーに出掛けることもある。熊本にも定期的に足を運ぶなど、県外のラーメン店主、ラーメンフリークとの交流も深い。